その手書きの出勤簿、後から使える記録になっていますか

月末の夜、事務所の机にタイムカードを並べて、赤ペンで書き足していませんか。「この日はたしか9時前には来ていたはず」「ここは早退したと言っていた気がする」。思い出しながら埋めていく作業が、毎月1〜2時間。

個人のLINEをさかのぼって「すみません、電車が遅れます」の一文を探すこともあります。パートさんが「先月の給与、1日分足りていませんか」と言ってきたとき、確かめる材料が手元にない、ということもあります。

勤怠管理をLINEに乗せると、この作業はたしかに軽くなります。ただ、その前に決めておかないといけないことが一つあります。「その記録は、後から使えるものになっているか」です。この記事では、どこから手をつけるかと、記録をどう残すかを、順番に決めていきます。

なぜ月末にまとめて直すことになるのか

先に、犯人捜しをやめておきます。月末にタイムカードを直しているのは、従業員がだらしないからではありません。記録が「発生した瞬間」に残らない仕組みになっているからです。

小さな会社の勤怠情報は、たいてい3か所に散らばっています。

  • 事務所のタイムカード(来た人だけ、押した日だけ)
  • 社長の個人LINE(遅刻・早退・欠勤の連絡)
  • 社長の記憶(現場に直行した日、途中で抜けた日)

この3つを月末に1つへ合流させる作業が、あの赤ペン作業の正体です。合流させる人が社長ひとりなので、社長が忙しい月は精度が落ちます。

崩れるのは「例外の日」から

普通に出社して普通に帰る日は、どんな方法でも記録できます。崩れるのは決まって例外の日です。

現場へ直行して事務所に寄らずに帰った日。早番と遅番が入れ替わった日。パートさんが子どもの迎えで1時間だけ早く上がった日。この日の記録が、誰の頭の中にも紙にも残らないまま、月末を迎えます。

そして「たぶんこうだったはず」で埋めた記録が、そのまま給与計算の根拠になります。ここが、後で効いてきます。

大手と同じ「勤怠システムを入れる」で失敗する理由

解決策として真っ先に浮かぶのが、勤怠管理システムの導入です。悪い選択ではありません。ただ、5〜30人の会社が大手と同じ入れ方をすると、たいてい途中で止まります。

理由ははっきりしています。全社員・全業務・全機能を一度に切り替えようとするからです。設定する人が社長しかいない会社で、これは一番きつい進め方です。導入の3か月後、結局タイムカードと併用したまま、という状態をよく見ます。

最初の「1点」の選び方

人も時間も足りない会社が取るべきは、戦力の分散ではなく一点集中です。仕組み化する業務を1つだけ選ぶとき、判断基準は次の3つです。

  • ①頻度が高い(毎日発生している)
  • ②社長が対応している(社長が抜けると止まる)
  • ③返答が毎回ほぼ同じ(「了解です」で終わる)

3つとも当てはまる業務が、最初の1点です。勤怠でいえば、多くの会社で出勤と退勤の報告がここに入ります。毎日あって、社長のLINEに届いて、返事は「了解」だからです。

弱者の原則勤怠での意味具体的な打ち手
局地戦対象を全社に広げないまずパート・アルバイトだけ、または1部署だけを対象にする
一点集中記録する項目を絞る出勤と退勤の2つだけ。休憩・残業申請は後まわし
接近戦個別のやりとりは残す「今日は病院に寄ってから」の一言をつぶさない形にする
差別化大手は個別対応を捨てる小さな会社は、自動化で浮いた時間を個別対応に回す

対象を絞ることに、後ろめたさを感じる必要はありません。1か月やってみて回った仕組みを、次の部署に横展開するほうが、全社同時導入よりも確実に早く終わります。

LINEでどう仕組み化するか

全体像はとても単純です。3つのブロックしかありません。

  • ①その場で送る:従業員が出勤時と退勤時に、決まった形で送る
  • ②1か所に集まる:送られた内容が、1つの台帳に日付順で並ぶ
  • ③月末は見るだけ:合計を確認し、抜けている日だけ確認して直す

ツールを入れる前に、半分は運用ルールで解決する

意外に思われるかもしれませんが、この3ブロックの効果の半分は、ツールを何も足さずに出せます。決めるのは次の3つだけです。

1つめ、送り先を1本にすること。社長の個人LINEをやめて、業務用の窓口に一本化します。個人LINEに届いた連絡は、社長が寝坊した日に消えます。同じ窓口で欠勤や遅刻の連絡も受けるなら、朝7時の欠勤の電話、社長が受けていませんかで、宛先の決め方と「何を書かせるか」を整理しています。

2つめ、書き方を固定すること。「出勤 9:02」「退勤 18:10」のように、単語と時刻だけの形に統一します。文章で送られると、集計するときに読む手間が発生します。

3つめ、その場で送ってもらうこと。あとでまとめて送るのを許すと、結局その人の記憶が記録になります。それでは今までと同じです。

この3つを決めるだけで、月末の赤ペン作業はかなり減ります。ここを飛ばしてツールだけ入れても、集まる情報の質は上がりません。

そのうえで、自動化すると何が変わるか

運用が回りはじめたら、次は「集める」「並べる」を自動化する段階です。ここで検討対象に入るのがLINE公式アカウントと、その周辺のツールです。何がどこまでできるかを整理しておきます。

やりたいことLINE公式アカウント単体外部ツールを併用
画面下に「出勤/退勤」のボタンを出すできる(リッチメニュー)できる
押されたら決まった返信を返す簡易な自動応答なら可能条件ごとに細かく返せる
誰がいつ押したかを表形式で残す難しいできる(フォーム・外部連携)
「今日まだ押していない人」だけに声をかける難しいできる(タグ・条件配信)

つまり、ボタンを置くところまでは公式アカウント単体でできます。記録として並べたい、押し忘れた人だけに連絡したい、となった時点で外部ツールの検討に入る、という順番になります。最初から全部そろえる必要はありません。

配信通数の上限が、絞り込みの根拠になる

もう一つ、実務上の制約を知っておくと判断が早くなります。LINE公式アカウントの無料プラン(コミュニケーションプラン)で送れる無料メッセージは、月200通です。通数は「配信した友だち数 × メッセージ通数」で消費されます。

従業員20名に週1回一斉配信すると、それだけで月80通です。ここに「打刻を忘れている人へのお知らせ」や「シフトの連絡」を足していくと、上限はすぐに見えてきます。

これは制約であると同時に、答えでもあります。全業務をLINEに乗せることは、そもそも通数の面から現実的ではない。だから最初の1点を選ぶ、という話につながります。

見落とすとトラブルになるポイント

ここからが本題です。LINEで打刻できて便利になった、で終わらせません。その記録が労務の場面で使えるかどうかを見ます。

労働時間は「客観的な記録」で把握するのが原則

厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)で、始業・終業時刻の確認方法を示しています。原則とされているのは、使用者自身が現認する方法か、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎とする方法です。

さらに、働き方改革関連法による労働安全衛生法の改正で、2019年4月から労働時間の状況の把握が事業者の義務となりました(労働安全衛生法66条の8の3)。その方法は労働安全衛生規則52条の7の3で「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」とされています。

ここで見落としやすいのが対象範囲です。この把握義務は、いわゆる管理職(管理監督者)も含めた労働者が対象になります。「部長はタイムカードを押していない」という会社は、一度確認しておいたほうがよい部分です。なぜ管理職まで対象になるのか、残業代の話とどう違うのかは、店長の勤怠、記録していますかで詳しく整理しています。

◆ 自己申告制は「例外」という位置づけ

ガイドラインでは、自己申告制は客観的な記録による方法によることができない、やむを得ない場合の取扱いとされています。そのうえで、労働者への十分な説明、実態と合っているかの調査と必要な補正、適正な申告を阻害する取扱いをしないこと、といった措置が求められています。

ここが重要です。LINEで従業員が時刻を送るだけの仕組みは、形としては自己申告の延長線上にあります。「LINEにしたから客観的な記録になった」と自動的に言えるわけではありません。分かれ目は、送られた時刻がその場で改ざんできない形で残り、実態と合っているかを会社が確認できる状態になっているかどうかです。

効率化が、そのまま帳簿になる

とはいえ、ここは前向きに捉えてよいところです。労働者名簿(労働基準法107条)、賃金台帳(同108条)、そして出勤簿。この3つは法定三帳簿と呼ばれ、作成と保存が必要とされています。労働者名簿を埋める作業は、入社時の書類回収とひとつながりです。入社のたびにバタつかない集め方は、入社手続きの「あの書類まだ?」をなくすで扱っています。

出勤簿に決まった様式はありません。労働日ごとの始業時刻と終業時刻が、労働者ごとに確認できる形で残っていればよいものです。LINEの打刻を日付順・氏名順に並べた表は、そのまま出勤簿として使える形になります。

つまり、月末の赤ペン作業をなくすために作った仕組みが、そのまま帳簿の整備にもなる。効率化のつもりで作った仕組みが、法令対応にもなる、という状態です。ここを狙って設計してください。

保存期間は5年(当分の間3年)

作った記録は、捨てるタイミングも決まっています。労働基準法109条は、労働者名簿・賃金台帳・その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存すると定めています。ただし同法143条の経過措置により、当分の間は3年間とされています。出勤簿やタイムカードも、この対象です。

起算日は、原則としてその書類に最後に記入した日です。給与の支払日が後になる場合は、支払日が起点になります。

ここで問題になるのが、スマートフォンの中だけにある記録です。チャットの履歴は、端末を替えると消えます。担当者が退職したら、そのアカウントごと消えることもあります。3年分をさかのぼれる形で保存できているか、というのは、LINEで勤怠を管理するときの現実的な弱点です。だからこそ、送った内容を表形式の台帳に落とす部分をセットで考える必要があります。

◆ 記録として使えるかを決める4つの条件

便利かどうかの前に、この記録が後から使えるかを考えます。確認するのは次の4点です。

  • 誰が、が特定できるか:LINEの表示名だけでは足りません。同姓の人がいたり、途中で表示名を変えたりします。氏名や社員番号と紐づけた一覧を、別に持ってください。
  • いつ、が分かるか:その場で送られたものか、後から入力されたものかを区別できる形にします。後日修正した行には、修正日と理由を残します。
  • 後から書き換わらないか:台帳は上書き運用にせず、追記型にします。誰でも自由に過去の行を書き換えられる状態は避けます。
  • 本人の内容であることが分かるか:修正するときは、本人に確認したうえで直し、確認したこと自体を記録に残します。「会社が勝手に直した」形にしないためです。

特に4つめは軽く見られがちですが、後から効いてきます。退職者から未払い残業代を請求されたような場面で、争点になるのは「その記録は誰が作ったのか」です。記録がないこと自体が、会社にとって不利に働きます。そして、記録はあるが会社が一方的に直していた、というのも同じくらい弱い状態です。

なお、実際に労働時間としてどこまで数えるか(着替えの時間、待機の時間、直行直帰の移動時間など)は、働き方の実態によって判断が分かれます。ここは個別の判断が必要になる部分です。まずは「実際に働いた時間が、そのまま残る形」を作るところから始めてください。

最小構成で始める5ステップ

初手のハードルは、限界まで下げます。プログラムを書く話も、有料プランの話も、今は出てきません。

1

対象を1グループに絞る

まずはパート・アルバイトだけ、あるいは1部署だけにします。人数が多いほど例外も増えます。5〜10人程度から始めるのが現実的です。

2

記録する項目を2つに絞る

出勤時刻と退勤時刻だけ。休憩、残業申請、有給申請は、この2つが定着してから足します。同時に始めると、どれも中途半端に終わります。

次に何を足すかが決まったら、休憩・残業申請・有給申請のそれぞれの回で、作り方と法令上の注意点を書いています。

3

送り先を1本にする

社長の個人LINEをやめます。業務用の窓口を作り、「勤怠の連絡はここだけ」と全員に伝えます。ここを曖昧にすると、記録は最後まで散らばったままです。

4

集める台帳を1つ作る

表計算ソフトで十分です。列は「日付・氏名・出勤時刻・退勤時刻・備考(修正日と理由)」の5つ。追記していく形にして、過去の行は原則さわらないルールにします。

5

1週間試して、崩れた日だけ直す

必ずどこかで崩れます。直行の日か、早退の日か、日をまたぐ勤務か。崩れた場面だけルールを足していきます。最初から完璧な運用を設計しようとしないでください。

自動化は、この5ステップが1か月回ってからで間に合います。手作業で回らない仕組みは、自動化しても回りません。

よくある失敗

全業務を同時にLINE化しようとする
勤怠、シフト希望、有給申請、社内連絡を一度に始めると、従業員はどのボタンを押せばよいか分からなくなります。使われない機能が並ぶメニューは、それ自体が押し忘れの原因になります。まず1つ、が結局いちばん早い道です。

社長だけが管理画面を触れる
タイムカードの集計から社長を解放したはずが、今度は設定変更で社長が呼ばれるようになります。属人化の置き場所が変わっただけです。設定手順は最初にメモを残し、必ずもう1人が触れる状態にしてください。

打刻漏れを個人の責任にする
押し忘れは必ず起きます。忙しい日ほど起きます。責任を個人に寄せると、「後でまとめて送る」が常態化し、記録の質が元に戻ります。漏れは前提として、誰が・いつ・どうやって直すかを先に決めてください。修正の手順が決まっている会社は、記録が崩れません。

まとめ

この記事の結論

  • 勤怠をLINEに乗せる目的は「ラクになること」ではなく、働いた時間がその場で記録として残る状態を作ること。
  • 労働時間は客観的な記録での把握が原則。LINEで送るだけでは自己申告の延長にとどまるため、1か所の台帳に落として残すところまでを設計に含める。
  • その台帳は出勤簿として使え、保存期間は5年(当分の間3年)。効率化のつもりで作った仕組みが、そのまま法令対応にもなる。
  • 明日やること:パート・アルバイトだけを対象に、出勤と退勤の2つだけをLINEで送ってもらう運用を、1週間試す。台帳は表計算ソフトで、列は5つだけ。

※ 記事内で触れた法令・ガイドラインの内容は、公表されている条文および厚生労働省の資料に基づいています。実際の運用がどこまで求められるかは、勤務の実態や会社の状況によって判断が分かれる部分があります。個別の判断が必要な場面では、労働基準監督署の窓口などで確認してください。