LINE活用の効果を数字で言えますか|見るのは4つだけ

決算の打ち合わせの席で、「去年入れたあれ、結局どうでした」と聞かれたとします。銀行の担当者かもしれませんし、家族かもしれません。口をついて出るのは「まあ、だいぶ楽にはなりましたね」。相手は「なるほど」と言って、それ以上聞いてきません。

楽になったのは本当です。休みの連絡で電話が鳴らなくなったし、シフトの希望も勝手に集まってくる。ただ、何がどれだけ変わったのかを聞かれると、出せる数字がありません。管理画面で増えているのは友だちの数くらいです。

この記事では、追う数字を4つに絞ります。しかも新しく作る数字は1つもありません。会社がすでに持たされている記録から取ります。読み終えたら、明日出す数字が1つ決まります。

「なんとなく楽になった」が説明できない理由

効果が説明できないのは、効果がなかったからではありません。減ったものが、時間として見えないところにあるからです。

減ったのは作業時間ではなく、中断の回数

朝の8時40分に「すみません、今日休みます」と電話が鳴る。話している時間は3分です。ところが実際に失われる時間は3分では終わりません。手を止めて、誰の代わりを立てるか考えて、メモに書いて、さっきまでやっていた作業がどこまで進んでいたかを思い出す。ここまでで15分は溶けます。

これが1日2件あれば、月に10時間前後になります。ただしこの10時間は、どこにも記録されていません。だから減っても実感として残らないし、聞かれても答えられません。

効果が消えたのではなく、測る単位を間違えているだけです。中断の回数は測りにくいので、そこは諦めます。代わりに、結果として動いた数字を見にいきます。

追ってはいけない数字がある

LINEの活用というと、まず出てくるのが友だち数・開封率・ブロック率です。この3つは、飲食店や美容室が新規のお客さまを集めるための指標です。従業員に使ってもらう目的で導入した会社が追うと、まず間違いなく行き詰まります。

母数が増えない数字を、指標にしてはいけない

従業員20人の会社なら、友だちは最大でも20人前後です。増えようがありません。パートを1人採用した月だけ数字が動いて、あとは横ばい。これを毎月眺めても、判断材料にはなりません。

開封率も同じです。社内向けの連絡は、開封されて当たり前です。90%が92%になったところで、会社の何が良くなったのかを説明できません。数字は、動いたときに打ち手が変わるものだけを選びます。

指標を絞ることも、一点集中のうち

小さな会社が失敗するのは、数字を追わないからではなく、追いすぎるからです。10個の指標を並べたシートを作ると、3か月で誰も開かなくなります。人も時間もない以上、見る場所を絞るしかありません。

絞る基準は1つです。その数字が悪かったとき、来月やることが変わるか。変わらない数字は、見なくていい数字です。友だち数が5人減っても、会社としてやることは変わりません。時間外時間が1人だけ月50時間を超えていたら、来月の段取りが変わります。

見る数字は4つだけ

そこで、次の4つに絞ります。どれも新しく作る数字ではなく、すでに会社の中にある記録から取れるものです。

指標何がわかるかどこから取るか
①1人あたりの月間時間外時間忙しさの実態。仕組み化の効果がもっとも表れる勤怠・打刻の記録
②有給休暇の取得日数休める体制になっているか休暇の申出記録
③記録に残った連絡の件数口頭で処理していた分が、どれだけ形になったか台帳の行数
④社長が最初に対応した件数属人化の度合い。ここが本丸トークの返信者

①②は「経営指標」である前に、把握が求められている数字

この2つを先に挙げたのには理由があります。効果測定のために新しく集めるのではなく、そもそも会社が把握しておく必要のある数字だからです。詳しくは次の章で書きます。

取り方は難しくありません。①は月の合計を人数で割った平均と、いちばん多い1人の数字を並べます。②は付与日数と取得日数を並べます。どちらも1行で足ります。

③記録に残った連絡の件数は、実は「口頭処理」の裏返し

3つ目は、台帳に何行増えたかを数えるだけです。欠勤連絡が月18件、シフト希望が20件。この数字そのものに意味があるというより、裏返して読むところに意味があります。

従業員20人の会社で、月の欠勤・遅刻の連絡が3件しかないとします。実際に休みが3日しかなかったのなら結構なことですが、たいていは違います。残りは電話や口頭で処理され、記録に残っていません。つまりこの数字は、仕組みを迂回している量を示しています。

ここが増えていくのは良い兆候です。減ったら、便利になったのではなく、使われなくなった疑いを先に持ちます。

④社長が最初に対応した件数が、いちばん本質に近い

4つ目が本丸です。LINEで仕組み化する目的は、突き詰めれば社長を1次対応から外すことにあります。それが進んだかどうかを直接測れるのが、この数字です。

測り方は3通りあります。会社の状況に合うものを選んでください。

  • 返信者を数える……1対1のトークで、最初に返信したのが誰かを数える。担当者を分けている会社ならこれがいちばん正確です。
  • 自動で完結した件数を数える……自動応答やフォームだけで終わり、人が一切触らなかった件数。台帳に「自動」の列を1つ足せば取れます。
  • 社長の受信通知の数を数える……仕組みが整うほど、社長のスマホは鳴らなくなります。ざっくりですが、体感と一致しやすい数字です。

この数字が下がっていれば、仕組みは機能しています。逆に、他の数字がどれだけ良くても④が下がらないなら、社長の作業を減らさない自動化を作ってしまっています。

見落とすとトラブルになるポイント

ここからが、この4つを選んだ本当の理由です。①と②は、経営指標である前に、会社が管理しておくことを求められている数字です。効果測定のつもりで毎月出していると、その作業がそのまま法令上の管理になります。

時間外時間には、超えてはいけない線が引かれている

法定労働時間を超えて働いてもらうには、労使協定(36協定)が必要です。そのうえで、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされています(労働基準法第36条)。

臨時的な特別の事情があって特別条項を結んだ場合でも、上限があります。年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)。加えて、月45時間を超えられるのは年6回までです。この上限規制は、中小企業には2020年4月1日から適用されています。

◆ ここだけは押さえる

「複数月平均80時間以内」は、2か月から6か月のどの区切りで平均しても超えてはいけないという意味です。つまりある月が多かったら、その先数か月まで影響が続きます。年度末にまとめて集計する会社は、超えてから気づくことになります。毎月1回、平均と最大を出しているだけで、超える前に段取りを変えられます。効果測定のつもりで作った習慣が、そのまま上限管理になります。

平均値だけを見ると、1人の長時間労働が消える

ここでつまずくケースが、とても多いです。上限規制は会社の平均にかかるものではなく、従業員1人ひとりにかかります。

従業員10人のうち9人が月10時間、1人だけ月90時間だったとします。平均は18時間です。数字だけ見れば健全そのものですが、実態としては1人が上限に迫っています。平均は、いちばん見なければいけない人を隠します。

だから①は必ず平均と最大の2つを並べて書きます。列を1つ増やすだけで、見落としの性質が変わります。誰の数字かまで台帳に残っていれば、翌月の配置を変える判断ができます。

有給休暇は「日数」だけでなく「誰が」まで見る

年次有給休暇についても、線が引かれています。年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、そのうち年5日は使用者が時季を指定して取得させることが義務づけられています(労働基準法第39条第7項)。2019年4月からの取り扱いです。

そして実際に有給を与えたときは、時季・日数・基準日を従業員ごとに記載した年次有給休暇管理簿を作り、その期間中と満了後3年間保存することが求められます(労働基準法施行規則第24条の7。原則5年ですが、経過措置により当分の間は3年とされています)。

ここでの落とし穴は、基準日が人によって違うことです。会社全体の取得日数を平均で出しても、「あと2か月で1年が終わるのに、まだ2日しか取れていない人」は見つかりません。②は人単位で、基準日から何か月経ったかとセットで見ます。なお、誰が対象になるかは勤務形態によって変わるため、個別の判断が必要です。

数字を出す作業が、そのまま記録になる

月に1回、この4つを1行にまとめてファイルに残す。それだけの作業ですが、残った行は労働時間と休暇の管理をしていた証拠になります。労働基準法第109条は、労働関係に関する重要な書類の保存を求めています。集計そのものが帳簿ではありませんが、もとになった記録がどこにあり、いつ確認したのかが辿れる状態には価値があります。

◆ 数字は、集めるより「並べる」ほうが効く

1か月分だけの数字は、良いのか悪いのか判断できません。ところが12か月並べると、繁忙期の位置も、仕組みを入れた月の前後差も、一目でわかります。効率化のつもりで作った1行の記録が、そのまま説明できる材料になります。銀行にも、従業員にも、労働基準監督署の調査にも、同じ表で答えられます。

明日からの最小構成(3ステップ)

1

4つのうち、①だけを1か月分出す。先月の時間外時間を合計して、人数で割ります。同時に、いちばん多かった1人の時間も控えます。4つ全部を一度に始めないでください。

2

平均と最大を、必ず並べて書く。「平均18時間/最大90時間」という形にします。この2つが並んでいるだけで、翌月の打ち手が変わります。

3

同じ場所に、毎月1行ずつ足していく。シートを分けたり、月ごとにファイルを作ったりしないでください。1枚に積み上げないと比較できません。慣れてきたら②③④を列として足します。

グラフも自動集計も、後からで構いません。まず3か月、手で数字を書き写してください。手で書くと、どの数字が使えてどれが要らないかが自然にわかります。

よくある失敗

目標値を先に決めてしまう
「時間外は月20時間以内」と決めてから測り始めると、数字のほうが目標に寄っていきます。申告が控えめになるだけで、実態は何も変わりません。最初の3か月は実測だけと決めて、目標は4か月目から置きます。

平均だけを見る/年に1回しか集計しない
この2つが重なると、いちばん危ない人が、いちばん遅く見つかります。年度末の集計で90時間の月が3回あったと分かっても、打てる手はもう残っていません。

数字を従業員にいっさい見せない
自分が入力した記録が何に使われるのか分からないと、入力は必ず雑になります。個人名を出す必要はありません。全体の平均と、前月からの変化だけを共有すれば十分です。「先月より減りました」の一言があるかどうかで、翌月の入力の精度が変わります。

指標を増やす
3か月も続けると、もっと細かく見たくなります。ここで列を増やすと、集計に時間がかかるようになり、やめる理由が生まれます。追加するなら、1つ足すたびに1つ捨ててください。

まとめ

LINEで仕組み化した効果は、友だち数では測れません。測るべきは、会社の時間がどこに戻ってきたかです。そしてその数字は、新しく作る必要がありません。労働時間と休暇の記録という、すでに手元にあるものから取れます。

毎月1行、平均と最大を並べて書く。この作業は効果測定であると同時に、上限に当たる前に気づくための管理でもあります。同じ手間で2つの目的を満たせるものから始めるのが、人も時間もない会社の戦い方です。

この記事の結論

  • 友だち数・開封率は追わない。母数が増えない数字は指標にならない
  • 見るのは4つ。時間外時間/有給取得/記録件数/社長の1次対応件数
  • 時間外は平均と最大を並べる。平均は、いちばん見るべき1人を隠す
  • 明日やること:先月の時間外時間を「平均◯時間/最大◯時間」の形で1行書き出す

なお、上限規制や有給休暇の取り扱いは、勤務形態や協定の内容によって適用が変わります。自社に当てはめる際は、個別の判断が必要です。