有給休暇の管理「あと何日ですか」に即答できますか

廊下ですれ違いざまに呼び止められます。「社長、私の有給、あと何日でしたっけ」。

その場では答えられません。事務所に戻って、去年のファイルを開いて、カレンダーの書き込みと突き合わせて、ようやく「たぶん8日くらい」と返す。返した数字が正しいかどうかは、正直なところ自信がありません。

そもそも、誰が今年何日取ったのかを一覧で見たことがない。取得の申し出は、口頭だったり、LINEだったり、シフト表の余白だったりで、ばらばらに来ています。

有給は、出勤や残業と決定的に違うところがあります。残数を管理しないと成り立たない制度だという点です。この記事では、申し出を受けるところから、残数と管理簿までを1本の流れにするまでを決めていきます。

なぜ「あと何日か」が誰にも分からないのか

出勤・退勤・残業は、その日の記録を足していけば済みます。有給だけは違います。付与された日数から、取った日数を引く。この引き算をどこかで続けていないと、残数が分かりません。

情報が3か所に散っている

  • 付与日と日数:入社日から計算する。人によって日付が違う
  • 取得した日:口頭、LINE、シフト表の書き込みに分散している
  • 残数:社長の頭の中か、どこにもない

ここでいちばん厄介なのが1つめです。有給の起算日(基準日)は、原則として入社日から6か月経過した日になります。ということは、入社時期がばらばらな会社では、基準日も人数分だけ存在します。20人いれば20個の基準日があり、それぞれ別の日に1年が始まって、別の日に締まります。

この状態で「全員の状況を月末に確認する」のは、かなり無理があります。確認しようがないから確認しなくなり、気づいたら誰の残数も分からない。小さな会社では、ここでつまずくケースがとても多いです。

そして、聞かれるまで気づかない

有給は、本人から言われて初めて動く運用になりがちです。裏を返すと、何も言ってこない人については、何も起きません。「今年1日も取っていない人」が誰なのかを、会社が把握していない状態になります。

ここが後半で書く法令の話に直結します。何も言ってこない人こそ、いちばん先に確認しなければいけない人だからです。

「取りたい人が申請してくる」を待つと失敗する

大きな会社は、システムで残数を本人に表示し、取得が少ない人には自動でアラートを出しています。仕組みとして正しいのですが、小さな会社が同じものを入れても、たいてい効果が出ません。

理由は、小さな会社のボトルネックがシステムではないからです。本当の壁は「言い出しにくい」です。

  • 自分が休むと、その日の穴を誰が埋めるのかが分かってしまう
  • 社長が休んでいないのに、自分が休むと言い出しづらい
  • 口頭で言うと、その場の空気で「まあ、また今度」になる

この壁がある限り、申し出は増えません。申し出が増えなければ、取得は進みません。

待つ制度から、会社が声をかける制度へ

ですから、設計の方向を変えます。本人が言い出すのを待つのではなく、会社から声をかける形にする。これは気配りの話ではなく、後述するとおり、法律が会社に求めている方向でもあります。

そして「言い出しにくい」への対策としては、LINEの相性がとても良い部分があります。面と向かって言うより、ボタンを押して日付を送るほうが、はるかに心理的な負担が小さい。口頭で申し出るハードルが下がるだけで、取得は動き始めます。

弱者の原則有給での意味具体的な打ち手
局地戦全員を一度に見ないまず「今年の取得が少ない人」だけを見る。全員の残数管理は後
一点集中1つの表に集める基準日・付与日数・取得日・残数を、1人1行にまとめる
接近戦1対1で声をかける大手が自動アラートでやることを、社長が直接ひとことで返す
差別化言い出しやすさで勝つ申し出のハードルを下げる。大手は制度で解決するが、小さな会社は距離で解決できる

LINEで「申し出・承認・管理簿」を1本にする

作るのは4ステップの流れです。

  • ①申し出:本人が日付を送る
  • ②承認:会社が返す
  • ③記録:管理簿に1行増える
  • ④残数:本人に残りが返る

先にやるのは、基準日の一覧づくり

ツールより先に必要なものがあります。全員の基準日と付与日数を書いた1枚です。これがないと、申し出を受けても引き算ができません。

作り方は単純で、入社日から6か月後を基準日として並べるだけです。人数が多くて基準日がばらけすぎている場合、全社で基準日をそろえる方法(斉一的取扱い)もありますが、その場合は前倒しになる分の調整が必要になります。まずは現状のまま一覧にしてください。この基準日は、入社日さえ分かれば決まります。入社日を入社時にきちんと記録に残す方法は、入社手続きの「あの書類まだ?」をなくすで扱っています。

送る内容を3つに固定する

  • 有給(この一語で申し出の合図)
  • 日付(例:8月14日)
  • 終日か半日か

理由は不要です。有給の理由を聞く必要はありません。ここを聞く運用にすると、申し出は一気に減ります。

どこまでが公式アカウント単体でできるか

やりたいことLINE公式アカウント単体外部ツールを併用
「有給の申し出」ボタンを画面下に置くできる(リッチメニュー)できる
日付を入力してもらう1対1トークで受ける形なら可能フォームで受けられる
管理簿に自動で行を足す難しいできる
本人に残数を返す難しいできる
取得が少ない人にだけ声をかける難しいできる(対象を絞った配信)

最初は①と②だけで構いません。③の管理簿は手入力でも成立します。むしろ手で1行書く運用を1〜2か月続けたほうが、何を自動化すべきかがはっきりします。

なお、有給は「休みたい日」を伝えるだけの情報です。産休や介護のように、伝えること自体が重い情報ではありません。だからこそ、休暇関係の中ではいちばんLINEに乗せやすいと言えます。逆に、LINEに乗せるべきではない申し出もあります。その線引きは産休の記事に書きました。

見落とすとトラブルになるポイント

ここからが本題です。有給は、申し出を受けるだけでは足りません。会社側に義務が2つあります。

義務①:年5日は、会社が取らせなければならない

2019年4月1日から、労働基準法39条7項により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、そのうち年5日は、基準日から1年以内に時季を定めて取得させることが使用者の義務となっています。

ここで押さえたい点が3つあります。

  • 対象は正社員だけではありません。年10日以上付与される人であれば、有期雇用の人も、いわゆる管理職(管理監督者)も対象になります。
  • すでに5日以上取っている人には、時季指定は不要です。必要がないというより、することができません。取れていない人だけを見ればよい、ということです。
  • 時季を定めるときは、本人の意見を聴き、その意見を尊重するよう努める必要があります。会社が一方的に日を割り当てる制度ではありません。

会社が時季を指定する方法のほかに、労使協定を結んで取得日をあらかじめ決めておく「計画年休」もあり、こちらで取った日も年5日に数えられます。お盆や年末年始に寄せて、期限が来る前に5日を確保しておく方法は、夏休みの計画年休、決め方と伝え方で扱っています。

違反した場合の罰則も定められています(30万円以下の罰金)。しかもこの罰則は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。ただし実務では、労働基準監督署の監督指導において、まず是正に向けた指導が行われるのが原則とされています。

「うちはパートだから関係ない」がいちばん危ない
週の所定労働日数が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満の人には、日数が比例して付与されます。ただし比例付与でも、週4日勤務の人は継続勤務3年6か月で付与日数が10日に達します。この時点で年5日の義務の対象に入ります。長く勤めているパートの方がいる会社は、必ず確認してください。

義務②:年次有給休暇管理簿を作る

もう一つが管理簿です。労働基準法施行規則24条の7により、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成しなければならないとされています。記載するのは、時季(取得した日)・日数・基準日です。保存期間は3年間です。

様式は決まっていません。労働者名簿や賃金台帳に必要事項を盛り込んだ欄を追加する形でもよいとされています。つまり、特別なソフトは要りません。1人1行の表があれば足ります。

◆ 申し出の記録が、そのまま管理簿になります

ここがこの記事のいちばん大事な部分です。

「有給/8月14日/終日」という申し出を受けて、承認して、1行書く。この1行に必要なのは、誰が・いつ取ったかだけです。そこに基準日と付与日数の列を足せば、それはもう年次有給休暇管理簿の形をしています。

つまり、「あと何日ですか」に即答するために作った表が、そのまま法令上求められている管理簿になります。効率化のつもりで作った仕組みが、そのまま法令対応にもなる。有給は、この構造がもっともきれいに出るテーマです。

数え方で間違えやすい3点

年5日の数え方には、細かい決まりがあります。実務でつまずきやすいところを挙げます。

  • 時間単位で取得した分は、年5日には算入できないとされています。半日単位は0.5日として数えられます。時間単位の年休(労使協定により年5日以内で導入できるもの)を入れている会社は、集計を分けてください。
  • 前年度からの繰越分を取得した日数は、5日から控除できます。繰越分だからカウントしない、ではありません。
  • 法定の有給とは別に設けた特別休暇(夏季休暇や慶弔休暇など)を取った日数は、控除できません。ここは誤解が非常に多い部分です。

3つめについて補足します。特別休暇は年5日の数に入らないうえ、慶弔休暇のように会社が設ける休暇には、別の論点もあります。日数の決め方や対象者の範囲については慶弔休暇の日数表と申請の受け方を整理した記事で扱っています。有給とは別の制度として、切り分けて管理してください。

会社が時季を指定するなら、就業規則に書く

休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項です(労働基準法89条)。したがって、使用者による時季指定を実施する場合は、対象となる労働者の範囲と時季指定の方法などを就業規則に記載する必要があります。運用だけ先に始めて、規則に何も書いていない状態にならないよう気をつけてください。

あわせて、時季変更権についても触れておきます。労働基準法39条5項ただし書により、労働者が請求した時季に有給を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に変更することができます。ただし、これは単に忙しいというだけで使えるものではありません。適用できるかどうかは個別の判断が必要です。

この時季変更権は、有給が「事前の申請」を前提にしていることの表れでもあります。だからこそ、休んだ後になって「あの欠勤を有給にしてほしい」と言われても、会社に応じる義務はありません(すでに過ぎた日には、時季を変更する余地がないためです)。欠勤の連絡をLINEで受ける際に、この事後振替をどう扱うか先に決めておく方法は、朝7時の欠勤の電話、社長が受けていませんかで整理しています。

◆ 1人1行に、この4つが並んでいるか

便利かどうかの前に、この記録が後から使えるかを考えます。有給で確認するのは次の4点です。

  • 基準日:その人の1年がいつ始まっていつ終わるのか
  • 付与日数:今年何日与えたのか(繰越分と分けて)
  • 取得した日:日付そのもの。「3日取得」ではなく、いつ取ったかが要る
  • 残数:引き算の結果。ここが即答できれば、冒頭の質問は解決します

この4つが1人1行に並んでいれば、残数の照会にも、年5日の確認にも、監督署の調査にも、同じ1枚で答えられます。

最小構成で始める5ステップ

1

全員の基準日と付与日数を、1枚に書き出す

入社日から6か月後が基準日です。名前・入社日・基準日・今年の付与日数の4列でかまいません。ここが土台になります。

2

申し出の窓口を一本化する

社長の個人LINE、口頭、シフト表の書き込みをやめて、1か所に集めます。窓口が複数あると、引き算が必ずどこかで狂います。

3

送る内容を3つに固定する

「有給/日付/終日か半日か」。理由は聞きません。返事は「承認します」で統一します。

4

承認したら、その場で1行足す

後でまとめて転記しようとすると、必ず抜けます。承認の返事を送ったら、続けて表に1行書く。この順番を固定してください。

5

基準日から半年たった人に、声をかける

1年の期限が来る直前ではなく、折り返しで見ます。取得が0日か1日の人がいたら、「そろそろどこかで取りませんか」と本人の希望を聞く。これが実質的に、いちばん効く一手です。

よくある失敗

申し出は受けているが、管理簿がない
いちばん多い状態です。LINEのトーク履歴をさかのぼれば「取った日」は分かる、と考えがちですが、それは記録ではなく履歴です。基準日と付与日数が並んでいないと、残数も年5日の達成状況も出てきません。1行書く手間を惜しまないでください。

パートやアルバイトを対象外だと思っている
比例付与でも、勤続が長くなれば付与日数が10日に達し、年5日の義務の対象に入ります。「うちのパートは短時間だから」で確認を止めると、対象者を丸ごと見落とします。

期限直前にまとめて消化させる
基準日から1年が終わる直前に「今月中に5日取ってください」と伝える運用です。現場が回らなくなるうえ、本人の意見を聴いて尊重するという趣旨からも離れます。半年時点で一度見る、を習慣にしてください。

まとめ

この記事の結論

  • 有給は、記録を足すだけの制度ではありません。付与から取得を引く仕組みがないと、誰も残数を答えられません。
  • 年5日は、会社が取らせる義務です(労働基準法39条7項)。対象は年10日以上付与される人で、有期雇用の人も管理職も含みます。
  • 週4日勤務のパートでも、勤続3年6か月で付与日数は10日に達します。「うちはパートだから」で確認を止めないでください。
  • 年次有給休暇管理簿(時季・日数・基準日、3年保存)に特別なソフトは要りません。申し出の記録に列を足せば、それが管理簿になります。
  • 明日やること:全員の入社日から基準日を計算して、1枚の表に書き出す。それだけで構いません。

※ 記事内で触れた法令の内容は、公表されている条文および厚生労働省の資料に基づいています。付与日数の計算、基準日をそろえる場合の取扱い、時季変更権を行使できるかどうかなどは、勤務の実態や就業規則の定めによって判断が分かれます。個別の判断が必要な場面では、労働基準監督署の窓口などで確認してください。